# はじめに

どうも、私です。

先日、Cloudflare Workers Tech Talks in Tokyo #8を見ました。
で、見終わった感想なんですが、あまり面白くなかったです。

全部が全部というわけではなく、Containersの話やメルカリの話なんかは興味深く聞いていました。ただ、全体的に技術的な踏み込みが浅いというか、聞き終わって「結局何の話だったんだろう」となる発表がちらほらあって、すごく悲しい気持ちになったというのが正直な感想です。

別にプレゼンが下手だったわけではありませんし、むしろ全体的に皆さん発表が上手かったと思います。

ただ、私はテックトークにそういうものを求めていなかったようです。

# 何をもってそう思ったの

例えば、大規模SaaSの話は、Cloudflareにはこういうサービスがあって、従来こうしていたものがこうできて、Cloudflareでも大規模なSaaSを作れそうだ、というような話だったかと思います。

で、何をもって作れそうだと判断したんですかね。

Cloudflareに何のサービスがあって、それぞれ何がどのようにできるのかは、概ね公式ドキュメントを読めば分かります。実際に大規模SaaSのアーキテクチャを検討したのであれば、既存の構成と比較してどこが問題になったのか、Cloudflare固有の制約をどう評価したのか、どこまでをCloudflareに載せられて、どこからは載せられないのか。そういう話が私は聞きたかったです。

他の発表を聞いていても、似たようなことを何度か思いました。

「この技術を使いました。」
なぜ?

「この構成にしました。」
なぜ?

「これで実現できました。」
そもそも何が課題で、それをどう解決するためにこの構成になったの?

技術スタックそのものを知りたいのではなくて、その技術スタックに至るまでの判断が知りたかったです。結果だけ並べられても、「へえ、そうなんですね、すごい」で終わってしまいます。

# Vibe Codingの話

今回かなり話題になっていたのが、宮本佳林さんの「アイドル視点から見たものづくりの本質」という発表でした。
自分の活動で使うWebサイトや配信システムなんかを、LLMを使いながら自分で作っている、という話です。

まず前提として、作ったこと自体はとてもすごいことだと思います。

必要なものがあって、それを自分で作って、実際の活動に投入している。世の中、口だけ達者で何も作らない人間が嫌なほど沢山いるので、手を動かして成果物を出していることはとてもすごい事だと思います。

プレゼンはすごく上手かったですし、話の組み立ても上手で、エンタメとして見れば、普段見る技術者の発表より完成度が高かったように思います。「やっぱりアイドルってすごいんだな〜」などと思いながら見ていました。

ただ、内容についてはあまり好きではありませんでした。

例えば、10時間配信のためのシステムを作ったという話であれば、10時間配信を成立させるにあたって何が課題だったのか、それを解決するためになぜそのアーキテクチャを選んだのか、私はその辺が気になりました。

KV, D1, R2を採用したのであれば、それぞれ何を保存して、何を根拠にそこへ保存することにしたのか。KVの整合性モデルは要件上問題にならなかったのか。LLMが生成した実装をどう検証して、本番投入して問題ないと判断したのか。
せっかくVibe Codingを題材にするのであれば、そういう話題を深堀すると面白い話ができると思います。

コードの生成をLLMに任せるとして、人間はどこまでシステムを理解する必要があるのか。生成された設計が妥当であることをどう判断するのか。自分の理解を超えた実装が出てきたときにどうするのか。

この辺の話題には私自身、かなり興味があります。

しかし、実際の発表ではそこまで踏み込まれず、私には概ね「LLMを使いながら色々作ってみたら楽しく作れました」という話に聞こえました。

それはそれで良いことだと思います。

ただ、テックトークとして聞いて面白いかというと、すごく申し訳ないのですが、私はあまり面白く思えませんでした。

# DynamoDB

中でも特に気になったのが、DynamoDBについてのくだりでした。

チケットシステムについて宮本さんが「これはDynamoDBではないか」と質問したところ、相手の会社の方が驚いていた、という話がありました。その理由として、チケットシステムは処理が速いからDynamoDBではないかと考えた、という趣旨の説明がされていたと思います。

ここは聞いていて、かなりもにょもにょしました。

速いからDynamoDB。
いや、なんで?

DynamoDBが低レイテンシで大規模なワークロードを捌けるのはそうなんですが、当然ながら「処理が速いシステムだからDynamoDB」というだけでデータストアを推測できるわけではありません。

どんなデータを扱っているのか、アクセスパターンはどうなっているのか、どの程度の一貫性が必要なのか、スケール特性はどうなのか。その辺を考えた結果としてDynamoDBではないかと推測したのであれば、その思考過程こそ聞きたいところです。

少なくとも発表中の説明だけを聞く限りでは、DynamoDBについて中途半端に見聞きした特徴をそのまま当てはめているようにしか見えず、私はあまり好きではありませんでした。

もちろん、実際にはもっと色々考えた上での発言だった可能性はあります。発表時間の都合で省いただけかもしれません。

なら、なおさらその話してほしかったです。

# 「アイドルなのにすごい」

世の中には私が面白いと思わないものを面白いと思う人も沢山居るでしょうし、その逆も当然あります。プレゼンの上手さや、ものづくりの楽しさを伝えることに価値を感じる人もいるでしょう。

好みの問題なので、別にそれはどうでもいいのかもしれません。

ただ、発表後の反応を見ていて、別のところで引っ掛かりました。

「アイドルなのにこんなことができるのがすごい」というような評価です。
これ、褒めているようで結構失礼ではないですかね?

以前、〇〇なのに、凄い!n回目🔗というnoteの記事を読みました。そこでは「アイドルなのにサッカーに詳しい」といった表現について、その言葉が成立する背景にある、属性への期待について書かれていました。

「アイドルなのに技術ができてすごい」も同様であると私は思います。

この評価が成立するためには、まず「アイドルには通常、この程度の技術的能力はないだろう」という期待が必要になります。アイドルという属性からあらかじめ期待値を下げておいて、その低く設定した基準を超えたので「すごい」と評価する。

要するに「あなたの属性であれば、この程度の基準で評価するのが妥当でしょう」という話です。
私はそこに、ある種の差別的、あるいは蔑視的なものを感じます。すごく傲慢ですよね。

念のため書いておくと、「アイドルなのにすごい」と言っている人に悪意があるとは思っていません。
ただ、悪意がないことと、その見方に差別的なものが含まれていないことは別でしょう。

例えば「女性なのに論理的ですね」だとか、「高齢者なのにITに詳しいですね」みたいな言葉も、発言者は褒め言葉として使えます。

しかし、その言葉が褒め言葉として成立するためには、「女性は普通それほど論理的でない」「一般的な高齢者はITに詳しくない」という前提となる期待が必要です。

少なくとも私は言われたくないです。普通に失礼だと感じるので。

アイドルについても同様で、アイドルという職業から技術的な能力を勝手に推測して、通常より低い評価基準を適用することが、果たして相手に敬意を持った接し方なのかは疑問です。

以前、属性によるカテゴライズから完全に逃れることは無理だろう、というようなことを書きました。なので、「人を属性で見るな」のような綺麗なことを言うつもりは毛頭ありません。私自身、人間を様々な属性で括って見ていますし、アイドルという職業から何らかの傾向を推測すること自体を差別だと言い始めたら、人間の認知そのものが成立しなくなってしまいます。

ただ、同時に、その属性をそのまま個人の評価基準にまで持ち込むことには、もう少し慎重であるべきだと私は考えます。

# 同じ土俵

私は、宮本さんがアイドルだから技術的に未熟だと思いたくはありません。
同時に、アイドルだから多少理解が浅くてもすごい、とも思いたくありません。

Cloudflare Workersのテックトークに登壇して、Cloudflare Workersを使ったものづくりについて話しているのであれば、私はその発表を普通に一本のテックトークとして聞きたいと思います。

その結果として、技術的に面白ければ面白いと言うし、理解が浅いと思えば浅いと言いたい。

寧ろ、「本業はアイドルなんだから技術的に浅くても仕方ないよね」と評価基準を変える方が、私には余程失礼に思えます。

もちろん、本業とは全く違う分野のものを短期間で学び、実際に動くところまで持っていったという事実は、それ単体で評価できます。

作ったことはすごい。

行動力もすごい。

プレゼンも上手い。

ただ、技術的な内容はすごく浅いように感じました。

全てを「アイドルなのにすごい」という便利な一言に押し込める必要はないでしょうし、押し込めるべきではないでしょう。

# さいごに

今回のWorkers Tech Talksを見ていて一番残念だったのは、宮本さんの発表というより、全体として技術的に深掘りする発表が思ったより少なかったことです。

何を使ったかより、なぜそれを使ったのか。作れたという結果より、なぜそれで作れると判断したのか。
そういう公式ドキュメントを読めば分かるようなサービスの紹介よりも、実際に使った人間がどこで苦しんだのかが知りたかったです。

Vibe Codingなら、LLMで作れましたという話より、LLMに実装を委ねた状態でどうシステムの正しさを担保したのか。そういう話の方が、私は面白いと思います。

世間の反応を見る限り、今回のイベントを楽しんだ人はかなり多かったようなので、単純に私がテックトークに求めるものとズレているだけなのかもしれません。

好みの話なので仕方ないのかもしれませんが。

ただ、「アイドルなのにすごい」という評価については、それとは別にやっぱり好きではありません。
属性によって期待値を下げた上で褒めるくらいなら、普通に同じ土俵で、その人が実際にやったことを見ればいいんじゃないでしょうか。

少なくとも私は、その方が相手に対して幾分か誠実な態度であると思います。